ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.4]

プロフィール
半村 良「雨やどり」

集英社文庫

1990年3月25日1刷

単行本 河出書房新社

1975年2月

   半村良の代表作と問われて、人はなんて答えるだろうか? かつて角川映画で大ヒットとなり、昨年テレビ化された「戦国自衛隊」か、それとも「石の血脈」「産霊山秘録」、「およね平吉時穴道行」・・・。SF、伝奇ロマンの奇才として名高かった半村だが、下町住まいの小生冷布亭としては「小説 浅草案内」(新潮社 昭和63年/1988)をそのひとつとして挙げたい。
   生涯何度も転居を繰り返した半村が、50歳を過ぎて居を定めたのが、浅草3丁目。浅草寺の北側、いまだ見番や料亭も残り、芸者の姐さんたちもちらほらと見える、通称観音裏と呼ばれる一角のマンションを根城としながら、著者自身と思われる「私」と人々との交流を描いた人情ものの短編集だ。実在の飲食店も数多く登場し、三社祭や植木市、酉の市など季節の風物もさらりと取り入れられ、刊行されて20年近くは経っているけれど、観光ガイドでは知り得ない浅草の魅力をも伝えて、まさに「浅草案内」なのだ。
   残念ながら、現在、単行本、文庫本とも新刊では手に入らないと思う。図書館や古本屋で探していただくしかない。というわけで、「小説 浅草案内」につながる半村の現代人情ものの嚆矢として短編集「雨やどり」を挙げる。

   新宿裏通りのバーのバーテンダー仙田を進行役にして、彼の前を通り過ぎていく、様々な男と女たち。時には、仙田自身が主人公となりながら、飲んで飲まれて、飲まれて飲んでの、男と女の物語。心根はみんな優しいけれど、優しいだけでは生きていけない。だます奴がいれば、だまされる奴もいる。嘘をつくのもいれば、見栄を張るのもいる。
   しかし優しくなくちゃ人じゃない。場所が変わって、浅草だって同じだ。時代は変わっても人の本質は変わりはしないけれど(いや、変わって欲しくないというべきか)、半村が描くところの物語は懐かしい昭和歌謡の匂いがする。偶然雨やどりをさせたホステスと深い仲になり、結婚まで約束しながら、女は出所したヒモの元へ帰っていく表題作の「雨やどり」や、「かえり唄」「昔ごっこ」なんて、題名からしてまさにそれだ。
   なお、「雨やどり」で、半村良は昭和49年(1974年)下期、第72回直木賞を受賞した。その半村良も5年前、2002年3月鬼籍に入ってしまった。

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