ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.12]

プロフィール
宮脇俊三「時刻表ひとり旅」

講談社現代新書 1981年6月 第1刷

   第1刷から26年、今年5月に15刷として発刊、帯に「名著復刊!」とある。題名から察するとおり、「時刻表の見方、読み方」そして「時刻表を使っての列車乗り継ぎの楽しみ」や、全国から「魅力あるローカル線10傑」を紹介している。
   しかし1981年は、国鉄民営化前。東海道、山陽新幹線は全線開通しているが、東北新幹線も上越新幹線も、まだ誕生していない。新刊当時は“実用的”であった本書を、今読んで、“役に立つ”のだろうか。
   例えば、ローカル線10傑で紹介したなかで、北海道の天北線、湧網線、石川県の能登線、九州の宮原線はすでになく、同じく九州の高千穂線も第3セクターの高千穂鉄道となって、これも昨年廃止となった。これでは文中いくら言葉を尽くして各線の魅力を語っても、今やむなしい。残る5線のうち、現在は、東北の五能線、中国地方の木次線の2線のみがJR、阿仁合線は秋田内陸鉄道、宮津線は北近畿タンゴ鉄道、松浦線は松浦鉄道となった。
   長距離列車「三大列車」の一番手、東京−西鹿児島を結ぶ「特急はやぶさ」は、現在、熊本までとなり、二番手、大阪−新潟−青森間の「急行きたぐに」は新潟まで、三番手の門司−福知山間の「普通列車」は、その残滓すらない。
   その時代、すでに重厚長大の負のシンボルとして、国鉄は岐路に立たされていた。第2章に「国鉄全線大集会」として、著者は各線を擬人化して、あるものは廃線寸前を嘆き、あるものは意気揚々と他のものを見下ろし、それぞれの現況をおもしろおかしく“発言”させている。著者はすでに今日ある姿を予見していたのか。と、すると鉄道の未来、公共交通のありかた、そして列車旅を考える1冊として、本書は“役に立つ”のかもしれない。

   パソコンや携帯から、簡単に、目的の場所までの路線、列車、時刻、乗り継ぎなどが瞬時に検索できる時代だ。そんな時代に過去からタイムスリップしたような本書だが、それでも時刻表のページをめくり、ひとり、列車旅の計画を立てる楽しさは十分に伝えてくれる。
   今回、文庫ではなく「新書」をご紹介した自らの掟破りを最後にお詫びしつつ、さて、明日は、小生も列車ひとり旅。梅雨の晴れ間、成田線から存続が危ぶまれる銚子電鉄に乗って、あじフライを食べに行くつもり。ビールが美味そうだ!

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