ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.24]

 

プロフィール
田辺聖子「川柳でんでん太鼓」

講談社文庫 1988年10月第1刷   単行本 講談社 1985年10月

   「道頓堀の雨に別れて以来なり−川柳作家岸本水府とその時代」(中央公論社 1988年3月刊)という本の題名にひかれて読んだのが、遅ればせながらの田辺聖子との“出会い”だった。

      恋せよと薄桃色の花が咲く

      旅で見る酒という字の憎からず

      友だちはよいものと知る戎ばし

   いずれも岸本水府の川柳であるが、それまで川柳と聞くと、ちょっと斜に構えて世の中を面白おかしく笑ってやろう、揶揄してやろうとするやや軽いものという先入観があったから、水府の人に対するなんともいえぬあたたかさというか、慈しみを感じる句に接して、深く感動した。そしてこうした川柳の奥深さを伝えてくれた田辺聖子という作家に、いっぺんに惚れてしまった。今までまるで読んでいなかったことを詫びるというのもヘンだが、いくつもの作品を貪るように読んで、終には集英社から刊行されて2006年に完結した「田辺聖子全集」も全巻(全24巻!別巻1!)購入してしまった。
   田辺聖子には川柳を題材にした著書がいくつかあって、本書「川柳でんでん太鼓」もそのひとつ。プロの川柳作家から市井の愛好家の“良句佳吟”を紹介しながら(その数700!)、解説する。
   田辺聖子が解説するところ川柳には3種類あって、「タハハハ・・・」と笑ってしまう「タハハハ・・・川柳」と、一読して詩趣汪溢「うーん、いいなあ」と感じ入る「うーん川柳」、さらに「しみじみ川柳」に分けられるという。いずれにしても、田辺聖子は時に突っ込み、茶々を入れつつ、しかしその句に込められた意を汲み取り、一緒に笑い、怒り、泣くのだ。川柳、そしてそれぞれの作家に対しての視線が優しく、読んでいるこちらも柔らかな気持ちに包まれる。
   本書で紹介された川柳には好きなものはいくつもあるが、最後にひとつご紹介。

      小説を書こうとしたは五度六度      (椙元紋太)

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