ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.26]

プロフィール
ディック・フランシス 「飛越」(菊池光訳)

ハヤカワ文庫 1976年9月第1刷  単行本(ポケットミステリ)1969年

   競馬場のある町で生まれ、育った。河川敷にあるその競馬場はコースの内側に畑があるなんとものんびりしたところで、スタンドに入らずとも土手の堤防から、馬たちが走り、近づき、遠ざかるのが見えた。競馬が開催されていない日には悪童仲間を誘って勝手に競馬場に入り込んで、砂のコースの上を走った。長じて、東京で長く住み暮らした家の近くには場外馬券場があって、居を変えた今の土地にも場外馬券場がある。こんなにも競馬に縁があるのに、小生は競馬はやらない。ギャンブルの才能がないからだ。

   しかし、競馬好き、ミステリ好きの人から薦められて読んだ、本書、ディック・フランシスの競馬シリーズ第7作「飛越」には、手に汗を握らされた。
   イギリスの伯爵でアマチュア騎手でもある主人公グレイは、自らの境遇に疑問を覚え、競走馬空輸会社の厩務員チーフとなる。労働者階級の若い同僚からの執拗ないやがらせを克服しながら、仕事を完璧にこなす。休日には騎手としてレースに参加、空輸先のミラノでは、運命的な出会いで恋人を得た。しかし、ある日グレイのかわりに競走馬空輸に付き添った友人が、失踪した。実は、グレイの前任者2人も行方不明になっていたのだった。何か関連があるのか調査を始め、ミラノで手がかりを得たところで狙撃され、一緒にいた恋人は瀕死の重傷を負う。
   黒幕は、グレイの雇い主だった。競走馬空輸を隠れ蓑にしながら、スパイや機密物資を他国に運んでいた。それに気づいた前任者や友人は殺されたのだ。グレイは捕らえられ、絶体絶命のピンチに陥るが、ここからたったひとりの超人的な闘いが始まった。

   解説は虫明亜呂無、スポーツ評論やエッセイストとして活躍した人だ。原著は1966年発表、翻訳、文庫化されてすでに30年以上も経っているけれど、こんな懐かしい名前に出会えるのもいまだに版を重ねて、本屋で手に入れることができるからだ。なお、驚くことにこのシリーズは昨年12月に最新の第41作「祝宴」が、翻訳刊行された。
   さて、次のレースはどの馬に賭けるか、いやどの本を読もうか、「競馬シリーズ」にはまりそうだ。

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