ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.27]

プロフィール
野坂昭如「アメリカひじき・火垂ほたるの墓」

新潮文庫 1972年1月第1刷  単行本/文藝春秋 1968年3月

   1968年春の直木賞受賞作の表題作2作のほか、「焼土層」「死児を育てる」「ラ・クンパルシータ」「プアボーイ」を収めた、焼け跡闇市派と称した野坂昭如初期の短編集。ご存じ「火垂るの墓」はアニメ化されて毎年終戦記念日が近づくとテレビ放映繰り返し、お涙頂戴、戦争とは悲惨なもの、いつのまにやら、戦争反対、平和賛美、肉親の情愛を謳う珠玉の名作ともてはやす声多数あって、異論はなかなかはさみにくい。作者野坂自身は意図するところは別にあった、もちろん小説、嘘もあるのは当然と、何かで書いていたのを読んだこともあるけれど、本書のカバーもそのアニメの一画面、だからここでは小生「火垂るの墓」にはあえて触れず他の作品について語りたいと、野坂節を真似ての下手な前口上、長々とまずはご勘弁。

   我が家に、妻がハワイで知り合ったアメリカの老夫婦が遊びに来ることになった。夫は歓待準備に舞い上がる妻を横目に乗り気ではなかったが、思い出されるのは中学生だった終戦時。進駐軍米兵に取り入り、物資の横流し、慣れぬ英語を使って日本女性を紹介する手伝い等々、昔のことが折に触れてカットバックで語られる。戦後二十有余年、屈辱の過去を清算し、日本男児ここにありと言いたいけれど、いざ夫婦が来日すると、旦那は元進駐軍で日本語堪能、へつらうつもりはまるでないが、毎晩飲食接待、果てはコールガールまで斡旋。野坂節で語られるこの物語はコメディータッチで面白く飽きさせないが、哀しい。タイトルの「アメリカひじき」とは、“ギブ・ミー・チョコレート、”と同様、進駐軍から“与えられた”ブラック・ティーのことだった。

   「焼土層」は、戦後別れた養母が死亡したと聞かされた主人公の20数年ぶりの“帰郷”、「死児を育てる」は、戦時空襲下のなか、幼い妹を置き去りにして死なせてしまったことのある女が、腹を痛めた我が子を殺してしまう話だ。運悪く少年院送りになった少年と、運良く少年院を出られた少年を主人公にした「ラ・クンパルシータ」「プアボーイ」、いずれも、戦時、敗戦直後のことがカットバックで語られるのは、「アメリカひじき」と同様だ。そして忘れてならないのは、その主人公たちがみな戦時、敗戦直後を生きぬいた、野坂と同じ“少年”“少女”であったということだ。

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