ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.36]

 

プロフィール
いとうせいこう みうらじゅん見仏記けんぶつき

角川文庫 1997年6月 第1刷  単行本 中央公論社 1993年9月

   6月のはじめに、唐招提寺の鑑真和上像の特別拝観があって、奈良まで足を伸ばした。国宝のその鑑真像は御影堂の厨子の中にまるで眠るがごとく鎮座していて、参拝客は誰もが深くその前で頭を垂れるのだった。また、御影堂には鑑真和上の渡来を描いた東山魁夷の障壁画、襖絵が数十面もあって、初夏の風が時折心地よく吹き抜ける中、絵に抱かれるがごとく見入ってしまった。
   唐招提寺は金堂(柱がギリシャ神殿を思わせるあのエンタシス!)が解体修理中であったのは残念だったが、仏様は修理所で公開されていた。修理所と言ってもそれは鉄骨スレート葺きのまさに倉庫で、国宝の盧舎那仏や千手観音立像も修理解体中で巨大な”生身のホトケ”が、手も触れんばかりの至近距離で見られる。金堂に端然と安置された仏様を拝むのも悪くないが、この生々しさは今しか見られない。一見の価値あり。

   小学生の頃から仏像ファンだったイラストレーターのみうらじゅんと、作家いとうせいこう二人の仏像見物旅行記が、本書「見仏記」。唐招提寺はもちろん奈良、京都の有名寺院のほか、東北、九州、訪れた寺院は40有余。ところどころ仏教仏像の基礎知識も解説されていて、”立派な“仏像入門書であるが、いとうせいこうが文章にまとめた二人の掛け合い漫才的なやり取りと、みうらじゅんの偏愛的なイラストが本書の最大の売りだ。
   奈良・浄瑠璃寺の吉祥天女像にクレオパトラと往年の日本人女優の面影を見出し恋心を芽生えさせ、京都・東寺の日光月光菩薩に鬱勃とした官能を覚える。ただ「仏様に会いたい、見たい」という”仏欲”に満ちた二人は、知識教養としてではなく、心から仏に恋している。Addict=中毒と言ってもいいかも知れない。珍道中のようで笑って読める本書だが、”仏欲”はどんどん増すようで本書に続き、「見仏記2 仏友編」「見仏記3海外編」「見仏記4親孝行編」(いずれも角川文庫)が出ていて、その“欲深さ”は侮れない。

   小生の”仏欲”も本書シリーズに負うところが多いが、奈良の東大寺へ行ったら是非、戒壇院の邪鬼を踏みしめた四天王を見てほしい。「戒壇院はみーんな男前でね、仏(ぶつ)フェロモン出してる。特に広目天は出してますよ!」と、みうらじゅんも言っている。ところで、戒壇院を出てまっすぐ南に下る道の途中に小さな蕎麦屋がある。小生が奈良へ行く度必ず立ち寄る、お気に入りの店だ。”仏欲”に加えて”食欲”も欠かせないとは、いささか恥ずかしいが・・・。

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