ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.45]

 

プロフィール
清水義範「蕎麦ときしめん」

講談社文庫 1989年10月 第1刷  単行本 1986年11月

   表題作の「蕎麦ときしめん」ほか「商道をゆく」「序文」など、6編からなる短編小説集。清水は、ユーモアあふれるパスティーシュ(模倣)小説の第一人者として世に出たが、この6編のうち2編は「名古屋ネタ」と呼ばれるものだ。なお「商道をゆく」は、もちろん「街道をゆく」のパスティーシュ。「序文」の英語日本語起源説も抱腹絶倒だ。
   本作は傑作である。しかし、小生は名古屋、愛知県の隣県に生まれ、育った。名古屋に親戚も友人も多いので、贔屓と見られるのは小生の意に反する。またちょっとした表現が、誤解を招く恐れがある。今回は、より名古屋事情に詳しい私の友人であるモリタ氏が代わって紹介する。

   10年に数回、名古屋がクローズアップされることがある。愛知万博「愛・地球博」は2005年、縦巻きカールヘアの名古屋嬢が話題になったのはそれよりさらに3〜4年前だ。不況に強いといわれる名古屋だから近々なにかがヒットするのではないかと予測するが、名古屋の人にそうやって水を向けると、一昔前なら「何いっとりゃーす。なにが名古屋だ。なんにもありゃせんがや。やっぱ東京でしょー。私らなんか田舎もんだであかんわ(訳/何を言っているのですか。名古屋には何もありません。やはり東京です。田舎者ですから駄目です)」と謙遜したに違いない。もちろん謙遜の裏には強烈な東京への対抗意識と強い自負があるのだが、賢い名古屋人はそれを露骨には前に出さない。
   しかしニッサンなどなにするものぞ、トヨタはいまやGMを抜いて「世界のトヨタ」である、という意識はすごく強い。陶磁器と言えば英語でチャイナだが、名古屋のノリタケボーンチャイナこそ一番である。ウェジウッドもジノリも「あんなもん、たいしたことありゃせんがやー」である。
   2008年クライマックスシリーズでは中日ドラゴンズは読売ジャイアンツに負けてしまったが、名古屋では読売新聞より圧倒的に中日新聞が売れている。朝日新聞も読まれているが「なにかっこつけとる。ちょーすいとるであかんわ(格好つけてどうするのだ。偉そうにして調子づいているなんておかしいではないか)」と陰口を言われるのが落ちである。何より今年はドアラが大人気となった。「めちゃくちゃかわいいがねー」と女性たちに大受けであるが、これに異議をはさむと、名古屋ではもてない。
   と言うものの「蕎麦ときしめん」は名古屋人を揶揄するものではない。名古屋人の特質、特性を題材にしながら、味わいのあるユーモア小説となっている。その味わいとは、もちろん「エビふりゃー」であり「味噌カツ」である。ご賞味いただきたい。

過去の目ききな一冊をチェック