ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.47]

プロフィール
R・D・ウィングフィールド「クリスマスのフロスト」(芹澤恵 訳)

                   創元推理文庫 第1刷 1994年9月
                   原著“FROST AT CHRISTMAS”1984

   帯に「英国ミステリの傑作フロスト・シリーズ」とある。本書はフロストシリーズの第1作で、小生が手にするのは2008年10月3日付の第38刷だ。第2作「フロスト日和」、第3作「夜のフロスト」もベストセラー、第4作となる最新刊「フロスト気質」は、週刊文春の12月11日号では2008年ミステリーベスト10の海外部門の堂々1位、「このミステリーがすごい!」で本年度第2位だ。「傑作らしい」と前々から気にはなっていたのだ。クリスマスは終わってしまったが、遅ればせながら、自分へのクリスマスプレゼント代わりに本書のページを開こう。

   クリスマスも間近な日曜日、イギリスの田舎町デントンで日曜学校からの帰途、8歳の少女が行方不明になる。いつもなら日曜学校が終われば迎えに行くはずなのにその日に限って迎えに行かなかった娼婦である少女の母親、アリバイが不確かなその顧客、性犯罪歴のある男性の失踪、いかがわしい写真を撮影する趣味がある教会の司祭など、疑わしい人物が次々と浮上する。捜査の指揮をとるのが、デントン署の警部ジャック・フロスト。整理能力、管理能力まるでゼロ、下品で無礼極まりない態度のフロストには署長のマレット警視は辟易しているが、仕事中毒のフロストは意に介さず、早朝から深夜まで真相を追う。
   捜査の過程で、町はずれの森の中から30年前の銀行強奪事件の関係者の遺体が発見された。そのニュースが明らかになると、当時から現在まで勤めている古参の銀行員が射殺されてしまう。そして、少女を誘拐したと名乗る男から、電話がかかってきた。

   “袖のほころびた汚らしいレインコートに趣味の悪いマフラーといういつものむさ苦しい格好”のフロストは、先ごろアルツハイマーが伝えられたピーター・フォーク演ずる刑事コロンボに、よく似ている。姿形だけでなく、口が悪く、上司ばかりか容疑者、被害者にも嫌悪されることは度々だ。しかし、その捜査手法はまったく違う。コロンボが名推理を働かせて鮮やかに事件を終了させるのに対して、フロストは複数の事件に関わりながら行きつ戻りつ、しつこく体当たりで立ち向かっていく。その“体当たり”でフロストは瀕死の重傷を負うが、“体当たり”でできたほころびから解決の道は開けるのだ。
   “下品で無礼極まりない”がどこかユーモラスで人間臭いフロストは、確かに面白く、好感すら覚えるが、もしこの男が自分の部下だったと考えると、マレット署長の気持ちも分からないではない。

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