ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.53]

プロフィール
金田一春彦「ことばの歳時記」

新潮文庫 1973年8月 第1刷

   季節折々のことばから流行りことば、奈良・平安の頃から伝わる雅なことばがあるかと思えば普段我々が使う日常のなにげないことばまで、その意味と由来を説明する。1月1日から12月31日まで1日ひとつのことばを紹介する形式で、366のことばを取り上げていて、日本語の豊かさに改めて思い知らされる。
   その文章は平明だが、薀蓄に富み、そしてなかなかユーモラスでもある。3月19日は「彼岸」、21日「おはぎ」、28日「春雨」といかにもこの季節に相応しいことばが並ぶが、29日は「月形半平太」。前日の「春雨」にひっかけたセレクトも面白い。
   そして4月1日は「四月一日さん」。富山県のある地域に多い人の苗字で「ワタヌキさん」と呼ぶらしい。旧暦の4月1日は衣替えの頃で、今まで着ていた綿入れを脱ぎ、あわせに着替えたから、「ワタヌキ」なのだ。「八月一日さん」は「ホヅミさん」と呼ぶ。ほんとかなと、ちょっと疑うが、金田一先生はエープリル・フールではないと断りを入れておられる。
   この日から2週間ばかりさかのぼって、3月15日は「梅ワカ忌」。平安時代、都から人買いにさらわれた梅若丸を探して母親が隅田川のほとりまで来てみると我が子はすでに病死していたという哀しい伝説に基づいて、今も隅田川畔の木母寺で法要を行うことを紹介している。もっとも現在は4月15日が梅若忌だが、この寺にある梅若塚にはいつでも詣でることができる。
   しかし実は“梅若塚”ではなくて“埋め和歌塚”だという異説もある。梅若丸がいまわの際に詠んだ歌「尋ね来て 間わば応へよ都鳥 隅田川原の露と消へぬと」にちなんでこの地で詠まれた和歌は数知れず、それらの和歌を供養するために埋めた塚だというのだ。もっともこの説は落語家の亡き6代目三遊亭円生が高座で語ったものだから、真っ赤な嘘。でも、日本人なら、エープリル・フールにはこんな洒落の利いた嘘を言ってみたい。

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