ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.55]

プロフィール
宮部みゆき「パーフェクト・ブルー」

創元推理文庫 1992年12月第1刷 単行本 東京創元社 1989年

   数多くのヒット作、話題作を飛ばし続ける宮部みゆきのデビュー刊行単行本が、本書である。「オール読物」1987年12月号には短編「我らが隣人の犯罪」が掲載されているが、小生もデビュー以来の熱心な宮部ファンだ、と言いたいところだが、情けないことに内容を全く覚えていないものが増えてきた。と言うわけで10数年ぶりに本書を開いてみた。

   高校野球界のスターと嘱望されるピッチャーが、焼き殺された。犯人は元チームメイト、体調不良が原因で野球を断念せざるを得なかった彼の筋違いな妬み、そねみが動機らしいが、その彼も自殺体で見つかった。この事件を不思議に思うピッチャーの弟諸岡進也とともに探偵事務所の若き女性調査員、加代子とその飼い犬で元警察犬のマサが真相を追い求める。
   そして事件は思わぬ展開をしていく。ある製薬会社がまったく新しいタイプの筋肉増強剤と同時にドーピング検査薬を開発し、それらの試薬をスポーツドリンクなどに混ぜ、少年野球の子供たちに摂取させ、投薬実験を行っていた。しかもそのドーピング検査薬には副作用があり、元チームメイトはその犠牲者だった。ピッチャーと元チームメイトは協力をして、事実解明を望んでいた。隠蔽工作を謀る製薬会社と、進也、加代子、マサは対決し、事件の全貌が明らかにされる。

   宮部みゆきの小説には、少年が主人公となるものが少なくない。陰惨な事件を題材にしがらも、少年のナイーブな視点や、正義漢あふれる行動が、読後感を爽やかなものにしてくれる。本書では諸岡進也もそうだが、犬のマサの存在が大きい。続編としてマサが活躍する短編集「心とろかすような―マサの事件簿」(創元推理文庫)もあるが、こちらのほうも内容は覚えてないのがつくづく情けない。
   ところで、筋肉増強剤や薬物に汚染されるスポーツ選手は近年ますます多くなっている。また偽装問題が相次ぎ、企業の危機管理能力や法令遵守の姿勢が厳しく問われる現在、企業の隠蔽工作はもっとも今日的な問題と言っていい。20年経っても、宮部みゆき、いや「パーフェクト・ブルー」は古びない。

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