ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.59]

プロフィール
村上龍「昭和歌謡大全集」

集英社文庫 1997年1月 第1刷  単行本 集英社 1994年3月

   第一章「恋の季節」に始まって、「星の流れに」「チャンチキおけさ」「有楽町で逢いましょう」「港が見える丘」「錆びたナイフ」「アカシアの雨がやむとき」「骨まで愛して」「いつでも夢を」と続き、最終第十章「また逢う日まで」で終わる章立ては、まさに「昭和歌謡大全集」だが、あくまでこれらの名曲はバックグラウンドミュージックであって、実はとてもスリリングでポップな、そして過激な小説だ。

   鬱々とした毎日を過ごし、特に共通の趣味や目的があるわけではない6人の若者グループが、唯一行動を共にするのがカラオケ。誰かの部屋に集まって歌うだけだが、ある日、熱海近くの海岸に巨大なスピーカーシステムと照明器具を持ち込んでのばか騒ぎからエスカレートして、翌日、グループのひとりが、白昼、尻を突き出して歩くおばさんをナイフで殺害してしまう。
   殺されたおばさんはヤナギモトミドリという名で、同じミドリという名前を持つバツイチ独身、40歳前のおばさんグループ「ミドリ会」6人の一員だった。「ミドリ会」はヤナギモトミドリを殺した男スギオカを見つけ出し殺害。ふたつのグループの報復合戦が幕を上げる。
   密輸銃に自衛隊横流しのロケット砲、あの手この手で新しい武器を手に入れ、互いに殺しあう展開は、フィクションだから面白いが、その終幕は想像をはるかに超える。

   戦後昭和生まれの小生は、10曲すべて歌える。「チャンチキおけさ」三波春夫、「また逢う日まで」尾崎紀代彦は、愛唱歌でもある。「錆びたナイフ」は、今年7月5日に国立競技場で二十三回忌が行われる石原裕次郎の1957年の大ヒット曲で、シングルレコード184万枚を売り上げたという。それにしても、52歳で亡くなった裕次郎のもう二十三回忌なのだ。全部歌えると自慢したところでしょうがないが、懐かしの昭和は遠くなりにけり、平成の今、この小説を彷彿とさせる事件が多発している。

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