ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.63]

プロフィール
P.D.ジェイムズ/小泉喜美子訳「女には向かない職業」

ハヤカワ文庫 1987年9月 第1刷 原著 1972年

   ずっと気になるタイトルだった。雇用機会均等法の今なら、「女には向かない」と言うだけで、いまどき古臭い男性優位主義者かと思われたり、ひょっとするとセクハラで訴えられかねない。しかし、原著英文もそのままズバリ“An Unsuitable Job For A Woman”で、その職業とは“私立探偵”、しかも、その主人公は22歳の可憐な美女なのだ。

   病気を苦にして自殺した探偵事務所所長の仕事を受け継いだ22歳のコーデリアへの最初の依頼は、大学を中退し自ら命を絶った息子の自殺の理由を調べて欲しいという高名な科学者からのものだった。ケンブリッジの緑豊かな美しい学園街を舞台に、コーデリアと同年代の息子の友人たちにパーティーや舟遊びに誘われたりしながら、自殺の真相を知っているらしい彼らに深く接触する。「女には向かない」どころか、22歳の新米女探偵は徐々に自分の知恵で捜査を続けていく。
   しかし、コーデリアが宿泊していたコテージが何者かに荒らされる。物語は一挙にサスペンス色が濃くなり、次にはコーデリア自身が襲われコテージの庭の井戸に放り込まれてしまう。かろうじて溺死はのがれ、何時間もかけて井戸の壁をはいのぼり、九死に一生を得る。そして彼女を襲った男が再度姿を現した。その男は、依頼者である科学者の研究助手だった。
   コーデリアは終に真相を明らかにするが、意外な結末が待っていた。彼女自身も精神的に深く傷つきロンドンの事務所に戻ると、そこで待っていたのは新しい依頼者だった。コーデリアは「女には向かない職業」を続ける決意をするのだ。

   巷に草食男子が増殖する世の中だ。これからは「男には向かない職業」が増えるかもしれない。自分のことを棚に上げてそんなことを言っていると、小生も「仕事には向かない」とレッドカードを出されてしまうかもしれない。えっ、もう出ている!?

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