ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.64]

プロフィール
小峰こみね はじめ「アルキメデスは手を汚さない」

                                講談社文庫 復刊2006年9月 第1刷/1974年10月 第1刷
                                単行本 1973年8月 )

   「アルキメデス」の一言だけを遺して、女子高生・美雪が死んだ。妊娠し、中絶の失敗により命を落としたのだ。相手の男は誰か? 同級生の間では、同じ学校の生徒ではないかという噂が広まっている。建築業を営む美雪の父親は、美雪の仲の良かった同級生数人をよんでそれとなく事情を探るが、彼ら彼女の口は堅い。それどころか、地元住民の反対を押し切ってマンションを建てた父親に対して、美雪が反感を抱いていたことを知らされる。
   同じ頃、彼らの教室では弁当を食べた男子生徒・柳生が倒れた。何者かがヒ素を入れたのだ。しかし、その弁当は他の生徒のものだった。幸い一命は取り留めたが、いったい誰が何の目的のためにやったのか謎が深まる。さらに、別の殺人遺体遺棄事件も発生した。手を汚したのは誰か、それとも誰も手を汚さなかったのか、高校生たちの友情と反抗をベースにした青春ミステリーは大団円に向かう。

   本書が世に出たのが1973年、前年1972年2月には連合赤軍あさま山荘事件が起きたが、5月に沖縄本土復帰、7月田中角栄が総理大臣に就任、日中国交正常化を経て、11月にはパンダが上野公園にやってきて、大学闘争、新左翼運動はほぼ終焉を迎えた。そんな時代の高校生たちに小峰は文中で次のように語らせる。「赤軍はさておき、僕たちは二、三年前の学園紛争には参加する年齢に達していませんでした。しかし先輩たちが掲げた目標は正しいものであったと高く評価しています。今の僕たち高校生には、そうした行動力は失われています。(中略)やろう、と僕たち四人は約束しました。まず自分たちの周囲の不正を糺すこと。そのためには破廉恥罪に該当しない限り手段を選ばないこと。そして結束して秘密を守ることを誓いました」。
   アルキメデスは風呂に入っていて、アルキメデスの原理=万有浮力の原理を発見した。その時発した言葉が「ユーレカ(ユリイカ)=我、発見せり」。彼ら高校生たちは、生きる意味を発見したのだ。やや青臭くも感じるが、青春の”熱さ”を思い出させてくれた。同時に、あの時代同じく高校生であった小生はまるで何にも考えなく生きていて、それが今更ちょっとほろ苦い。

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