ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.76]

プロフィール
竹内久美子「そんなバカな! 遺伝子と神について」

文春文庫 1994年3月 第1刷  単行本 1991年3月

   人間は、遺伝子を運ぶ乗り物にすぎない。人間に限らず、地球上のあらゆる生物は遺伝子を次世代に伝えていくために繁殖活動を行っている。働きバチはメスであるのに子どもを産まず、女王バチ一匹がその任を負っている。多くの鳥たちはオスが美しい羽で体を着飾ったり、メスにプレゼントをしたりする。ライオンのオスは二日半の間に160回もの交尾をする(させられる)。そして、人間の男は浮気をする。「そんなバカな!」と言っても、それもこれもみんな遺伝子のなせる技なのだ。遺伝子をより快適に安全に運ぶためにはあらゆることをするのが遺伝子=利己的遺伝子(セルフィッシュジーン)というヤツなのだ。
   竹内久美子は、R・ドーキンス博士が提唱したこの「利己的遺伝子」理論により、サルや鳥や、アリなどの様々な行動を俎上に上げる。人間ももちろん遺伝子の産物であるが、人間は言語や宗教、習慣、芸術など「文化」から逃れることもできない。「文化」は人から人にコピーされて伝わり、ときにコピーミスが起きて、新しい「文化」を産むことがある。こうした「文化」の伝達単位を「ミーム」と名づけたのはやはりR・ドーキンスで、人間は遺伝子とミームという二種類の自己複製子の乗り物だから、やっかいで「そんなバカな!」存在なのだ。

   ところで、「情けは人の為ならず」と言う。「他人に情けをかけることはかえって甘やかすことになって、その人の為にならない」と言うのは間違った解釈で、「他人に情けをかけることは結果として自分の為になる」と言うのが正しい。
   「佃祭り」という落語がある。祭りに出かけた主人公の次郎兵衛さん、最終の帰り船に乗ろうとするところを見知らぬ女性に声をかけられ、乗りそびれてしまう。聞けば3年前に金を落とし身を投げて死のうとしたところを次郎兵衛さんに助けられ、5両の金を恵んでもらったという。ようやく思い出した次郎兵衛さんだが、その乗りそびれた船が沈んでしまい、結果命拾いをした。「自分の為になる」と思ってした行動ではなく、「他人の為にしたこと」=利他的行動が自分の命を救うことになるのだが、これも深読みすれば「利己的遺伝子」のなせる技か? 恐るべし「利己的遺伝子」!

過去の目ききな一冊をチェック