ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.77]

プロフィール
小林信彦「唐獅子株式会社」

新潮文庫 1981年3月 第1刷  単行本/文藝春秋 1978年3月〜1979年6月

   唐獅子と言えば、「背中せなで泣いてる唐獅子牡丹」、ヤクザ映画「残侠伝」シリーズの高倉健だ。昭和40年代から50年代にかけてはヤクザ映画が全盛で、小生のお気に入りは、俳優なら高倉健をいつも陰で支える兄貴分役、池辺良。シリーズで言えば「仁義なき戦い」、菅原文太を主人公に、小林旭、成田三樹夫、金子信雄、山城新吾、チンピラ役が似合っていた川谷拓三など個性派が脇を固めていて、ヤクザ映画ばかり上映していた新宿昭和館へよく観に行ったものだ。

   本書は、単行本3冊をまとめたもので、「唐獅子株式会社」「唐獅子放送協会」「唐獅子映画産業」など10編からなる連作小説。ヤクザも近代化しなくてはならぬと本家の大親分から無茶な指令が出て、社内報を出したり、放送局を運営したり、映画製作に乗り出したり、音楽祭を開催する。親分が黒と言ったら黒、白といったら白、親分の言は絶対なのだ。その度に右往左往しながら切り盛りするのが、ムショ帰りの本家傘下の二階堂組組長黒田哲夫に、子分の元プロレスラーのダーク荒巻と大学出のインテリヤクザ原田。大阪弁とも広島弁ともつかない言葉を喋る黒田は「仁義なき戦い」の広能組組長を演じた菅原文太を彷彿とさせるし、テレビのキャスターをやらされたり、映画の三枚目役をあてがわれるダーク荒巻は山城新吾、黒田の知恵袋的存在ながらどこか抜けてて軽いキャラクターの原田は成田三樹夫がお似合いだ。
   つまり本書は、ヤクザ映画のパロディなのだ。さらにそれぞれの10編が、当時流行していたシティ情報誌やUHFのテレビ地方局の開局ラッシュ、映画「スターウォーズ」や「未知との遭遇」のパロディでもある。ダーク荒巻と原田は、「スターウォーズ」のR2-D2とC3POと言えなくもない。ベタなギャグやドタバタが満載で、当時の言葉で言えばそのハチャメチャぶりにやや辟易するところもないではないが、500ページ近い分厚な本を読了するのはあっと言う間だった。

   筒井康隆の「男たちのかいた絵」(新潮文庫)という連作小説がある。ほぼ本書と同時期に刊行されていて、同性愛やエディプスコンプレックス、多重人格などの持ち主を主人公にした強烈な筒井康隆ワールドを繰り広げているが、この主人公たちもヤクザだ。そして「唐獅子株式会社」の解説は、その筒井康隆だ。みんなヤクザ映画が大好きなのだ。

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