ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.79]

プロフィール
川端康成「古都」

新潮文庫 1968年8月第1刷  単行本1962年6月

   JR東海の「そうだ、京都行こう」キャンペーンはもうおなじみだが、今年の春のTVCMは見事な満開の桜の映像に、「御室の桜も、一目見たら、春の義理がすんだようなもんや。」というナレーションが重なり、印象に残った。実はこのナレーションの一文は、本書の小説「古都」から拝借したものだ。

   捨て子であったが、育ての親の慈しみの下、京都のきもの商家の娘として健やかに美しく成長した千恵子。祇園祭の夜に偶然自分に瓜二つの娘苗子と出会う。苗子は北山の杉林で働いているが、ふたりは、幼いころ生き別れた双子の姉妹だった。
   物語は、若いふたりの心のふれあい、ゆらぎを中心に展開していくが、この本の読みどころは、四季折々の京都の風景や行事がふんだんに盛り込まれていることだ。春は平安神宮の紅しだれ桜に始まり、夏の祇園祭の山鉾巡行、五山の送り火、秋は北野おどりに西陣のお茶屋遊びと昔ながらの京都の町の風情も垣間見ることができる。鞍馬の竹伐り会、北野天神のずいき祭り、嵐山の迦陵頻伽など、珍しい行事も紹介されている。
   「御室の桜も、・・・」とは仁和寺の桜のことで、文中で「御室の有明ざくら、八重の桜は、町なかのさくらとしては、おそ咲きで、京の花のなごりであろうか。仁和寺の山門をはいった左手の桜の林は(あるいはさくら畑)は、たわわに咲きあふれている。」と紹介している。もっとも、花見客の飲めや歌えの大騒ぎに、千恵子と両親は早々に退散するのではあるが・・・。

   実は小生、4月初旬にこの仁和寺を訪れている。お目当ては春と秋に特別公開されている霊宝館で、本尊の阿弥陀如来、勢至菩薩、観音菩薩三尊像や、薬師如来坐像や愛染明王坐像など多数の国宝、重文が目白押しだ。「御室の桜」はまだ固いつぼみの状態であったが、何百本もの桜は確かに「さくら畑」のようで、満開になったらさぞや素晴らしい景観になるだろうと思わせてくれた。飲めや歌えの大騒ぎは小生も勘弁だが、機会があればまた仁和寺を訪れよう、本書を京都案内として携えて。

過去の目ききな一冊をチェック