ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.81]

プロフィール
壇 一雄「壇流クッキング」

中公文庫 第1刷 1975年11月

   昭和44年(1969年)から昭和46年(1971年)にかけて、サンケイ新聞の家庭欄に掲載された料理コラムをまとめた一冊。太宰治と親交が深く「最後の無頼派」とも呼ばれた壇一雄の著作は第一に小説「火宅の人」が思い浮かぶが、一方、自ら包丁をさばき、料理上手、食通としても知られる。

   「春から夏へ」「夏から秋へ」「秋から冬へ」「冬から春へ」と大まかに季節ごとに章があり、その季節にふさわしい食材や調理方法を使った94もの料理が各々3ページほどで簡潔に紹介されている。簡潔にと言ってもそこは壇のこと、和食と言っても家庭料理から全国の郷土料理、外国は韓国、中国、ロシア、イギリス、スペインなどへと世界にまたがるから、食材の薀蓄、その料理を知ったいわれなどを面白おかしく記すのは怠りない。そしてそのレシピたるや細心にして豪快なのだ。
   豪快といえば真っ先に紹介されている「カツオのたたき」。
      「皮のまま、カツオに、金串を二本縦に刺し通して、ワラを焼き、カツオの表面をさっと
      あぶって霜降りにさせ、薄く塩を塗り付ける。ザクザクと下駄の歯の厚さぐらいに
      包丁で切って、まな板の上に平にならべ、コップに酢と、醤油を半々、サラシネギを
      いっぱいきざみ入れ、カツオが見えないくらいに全体にふりかけて、包丁の腹や
      手の平でペタペタと叩く。これが平ヅクリだ。」
   この文章を読んでいて、小生が初めて「カツオのたたき」を食べたときのことを思い出した。学生時代、仲間数人と高知県佐川の友人宅に遊びに行った時、ご父君が庭先でワラを焼いて「カツオのたたき」を作り、我々にふるまってくれた。佐川には土佐の名酒「司牡丹」がある。美酒ともども心存分、本場ものの「カツオのたたき」を楽しんだ。男の料理は、心意気なのだ。

   時折小生も料理の真似事などをするので、これからの季節、「春から夏へ」の中からは「シソの葉ずし・めはりずし」「ツユク(韓国の豚料理のひとつ)」などに挑戦してみよう。もっとも実際にやってみるのは「ソーメン」ぐらいかもしれないが、壇一雄曰く「鬱陶しい梅雨が明けて、夏の日にソーメンというのは、まったく嬉しいものである」。

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