ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.97]

プロフィール
倉橋由美子「大人のための残酷童話」

新潮文庫 1998年8月 第1刷  単行本 1984年4月

   アンデルセンやグリム童話、日本の昔話など、「換骨奪胎したり煮つめたりして作った」26の掌編集。「大人のため」と銘打ってあるくらいだから、エロチックなものが少なくない。小生とてそれを期待して「読みたくなって」、本を開いたのは否定しない。
   巻頭はアンデルセン童話「人魚姫」を題材にした「人魚の涙」。人魚といえども女であるから男女の営みで海に溺れた王子の命を救うというところまでは、想像できる。さらにお話がすすむと、再度命の危機に陥った王子を救うために、人魚姫は海の魔女に助けを乞う。命の代償に魔女が求めたものは、王子の下半身。顛末は読んでのお楽しみだ。
   「一寸法師の恋」では小さな一寸法師を愛玩するお姫様、「白雪姫」には七人の小人と来れば、これもムフフの展開だ。
   もちろんエロチックな話ばかりでなく、「残酷」なものもある。毒性なくして面白い小説なんてありえない、という倉橋由美子ならではの残酷譚だが、そこは「童話」、シニカルでも笑いを忘れない。

   本書ではかぐや姫は宇宙人だったという「かぐや姫」も残酷な結末を迎えるが、読みながら、一冊の本を思い出した。米村圭吾の「おたから蜜姫」(新潮文庫)だ。「おたから蜜姫」は以前紹介した同著者の風流冷飯伝から連なる「退屈姫君」に続く「おんみつ蜜姫」の続編。主人公のおてんばな蜜姫が「竹取物語」の謎を解くのだが、そこに徳川8代将軍吉宗と伊達家がからんで、秘められた財宝の争奪戦を繰り広げる。その謎解きの過程も虚実取り混ぜもっともらしくて、面白い。
   「人魚姫」に「白雪姫」、そして「かぐや姫」。ただ美しいだけでなく、大人にとってお姫様は、どこかミステリアスで、そしてムフフな存在であって欲しい。

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