ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
冷布亭氏からのご案内は、月に2回のお届け予定です。

[連載エッセイ No.98]

プロフィール
殿山泰司「JAMJAM日記」

ちくま文庫 1996年2月第1刷(角川文庫1983年11月) 単行本 白川書院 1977年12月

   自ら三文役者と名乗った俳優殿山泰司の1975年11月から1977年3月までの日記風エッセイ。仲間からはタイちゃんと呼ばれ、60過ぎてもはげ頭にサングラス、ジーパン姿で撮影所に通い、街を歩き回り、ジャズを聴きまくり、ミステリを読みふけった。すでに亡くなってから20年以上たつがどんな役者だったかと言うと、殿山泰司の盟友とも言える映画監督新藤兼人によると、『タイちゃんには社会の底辺に棲む弱者しか似合わない。町工場のおっさん、ヤキトリ屋のおやじ、なまぐさ坊主、いんちき祈祷師、呉服屋の番頭、機織職人、大工、左官、一膳めし屋―おでん屋お多幸の息子タイちゃんは、市井の名もなき庶民の姿がいちばん似合った』(新藤兼人「三文役者の死 正伝殿山泰司」岩波現代文庫)。

   三文役者だから呼ばれたらどこへでも行くというのがタイちゃんのスタイルで、都内で日活ロマンポルノのロケをした数日後には、TBSラジオで黒柳徹子の番組にゲスト出演。
   京都東映からお呼びがかかり太秦で松方弘樹や石橋蓮司らとヤクザ映画に出たと思ったら、とんぼ帰りで、ロマンポルノの続きを撮る。不良老人やいかがわしい役がとにかく似合うタイちゃんだが、中小企業施策のためのマジメな映画にも出る。「忙しいときは滅茶苦茶に忙しい。ヒマなときは2か月も3か月もヒマになる。これも三文役者の宿命か。」とタイちゃんは嘆いている。
   タイちゃんが聴いた観たジャズコンサートや映画のいくつかは小生も観ていて、独創的なタイちゃんの文体によって、ありありと思い出したりする。「日比谷野外音楽堂で昼すぎから6時間もぶっ通しでジャズを聴いた。ピーカンで真夏の太陽がギラギラ。(中略)えッそんなッ!! 調子よく振ってた首が急に止まり、気が重くなってしまうがな。それにしてもラストにプレイした山下洋輔トリオの音にオレはヒイッ!! と叫んだ。」

   タイちゃん死後、新藤兼人監督は先に引用した本を原作として映画「三文役者」を2000年に発表した。殿山泰司を竹中直人が演じていてこれがクリソツ(ソックリ)、愛人役を荻野目慶子がスッポンポンで熱演している。ヒイッ!! おもろいッ!! ちなみに新藤兼人は今年99歳、お元気でッ!!

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